目次
「犬神の悪霊」とは
概要
1973年公開の映画「エクソシスト」に端を発したオカルトブームや、1976年公開の猟奇ミステリー「犬神家の一族」(東宝)のヒットにあやかり、東映が1977年に公開したホラー映画が「犬神の悪霊」。
脚本・監督を務めたのは「女囚さそりシリーズ」の伊藤俊也。
実は伊藤俊也監督、「女囚さそりシリーズ」の主演・梶芽衣子と撮影手法を巡って対立。東映が監督よりも女優の方を尊重した結果、長らく監督業を干され、この「犬神の悪霊」が実に4年ぶりの監督復帰作となりました。
脚本は日本各地の犬神憑き・狐憑きの伝承を基にした伊藤俊也監督のオリジナルストーリーとなっています。
あらすじ
ウラン技師・竜次(大和田伸也)は仲間2人とウラン鉱脈探索のためにある寒村を訪れるが、彼ら3人が乗ったジープが誤って道端の小さな祠(ほこら)を破壊。さらに飛び出してきた犬を轢き殺してしまう。
その後竜次の仲間2人が相次いで怪死。竜次も命の危険に晒され、竜次の口から祠の破壊と犬の轢死の一件を知らされた妻・麗子(泉じゅん)は一連の出来事が犬神の祟りによるものと確信。次第に精神を病んでいく。
治療のため竜次と共に生まれ故郷の村に戻った麗子。村には犬神系(すじ)として村人から謂われなき差別を受けている垂水家があった。
果たして犬神の祟りと垂水家には何か関係があるのか?
また竜次は犬神の祟りを封じることができるのか?。
ラストには予想もつかない結末が待っている。
どんな抗議を受けたのか?
騒動の経緯
1977年3月10日、日本動物愛護協会、日本犬猫の会などの動物愛護団体が東映の撮影所に赴き、製作発表時の「本物の犬の首を切断する」という撮影方針に対し猛抗議。
「そのような残酷な行為は絶対許さず、場合によってはデモも辞さない」という強硬な姿勢で抗議を受けた東映は封切り日を1ヵ月先送りしなければならない状況に追い込まれます。
しかしながら、これは抗議を予想して東映の岡田茂社長が仕掛けた宣伝手段だったと言われています。
岡田社長の狙い通り当時の週刊誌各誌はこの騒動を記事に取り上げ、またオカルトブームの波にも乗って「犬神の悪霊」という作品の認知度は一気に高まることに。
現在では「撮影で本当に犬の首をはねた」と聞いても「そんなバカな」と一笑に付すことができますが、1977年という時代には「もしかしたらあり得るかも」と思わされてしまう空気感がありました。
その結果、公開前に「どうやら本当に犬の首をはねた映画があるらしい」という噂話も一部で広まり、そんな中で公開された「犬神の悪霊」はそれなりの好成績を収めたのです。
問題の場面
実際にそのシーンを見ると空中を飛ぶ犬の首は作り物っぽく見えますが、穴を掘って埋めるところでは本物の犬を穴に入れ土をかけています。
おそらくは完全に埋めたわけではなく「埋めたように見える形」にしているのでしょうが、それでも犬が不安がっている様子は十分に伝わって来ました。演出なのか現実なのか犬が涙を流しているアップもあり見ていて痛ましい気持ちになります。
また物語の冒頭、ジープで轢かれた犬が弱々しく横たわり、やがて完全に動かなくなるという場面は訓練された犬が演技しているというより犬が麻酔で強引に眠らされているように見えました。
今ではこんな撮影方法は動物愛護の観点からまずアウトでしょう。
動物愛護団体は本来ならばこうしたシーンにこそ抗議すべきだったように思います。
「犬神の悪霊」を鑑賞するには
「犬神の悪霊」は1980年代にVHSソフトが発売されましたがやがて廃版となり、一時はレーザーディスクソフトのラインアップに上がっていたにもかかわらず結局発売されなかったという不可解な「事件」も起きています。
DVDの時代になってもなかなか商品化されずTV放送も皆無だったため、やがてこの映画は封印作品なのだろうという解釈が一般化します。
封印理由については「犬の首をはねるシーンが問題」「村八分という差別表現が問題」など諸々推測されていましたが、突如として2007年に東映からDVDが発売されます。
以後、堰を切ったようにCSで放映されるようになり今や「封印作品という噂は何だったんだろう?」という状況になりました。
長らくDVD化されなかったのは単に「売れないから」という経営判断だったかもしれませんし、もしかすると封印作品扱いにしてユーザの飢餓感を煽り、満を持して発売することで注目を集めるという狙いがあったのかもしれません。
いずれにしても観られなかった作品が手軽に観られるようになるのは喜ばしいことです。
はねられた犬の首が果たして本物なのかどうなのか。
映像ソフトや動画配信サービスで是非ご自身の目でお確かめください。